May 22, 2013

【映画】『SMOKE』



監督はウェイン・ワン。原作はポール・オースターの書き下ろし。
疑う余地のない大好きな一本。かなりざっくりとあらすじを書けば、煙草屋のオヤジと妻を亡くした物書きのオヤジを中心に流れる物語。

「良い映画とはなにか?」と考えたときに、僕に言わせれば、「たいした展開はないが、何度も見返したくなる一本」みたいな感じかと。この作品もそんな作品のひとつです。

ひとつの仕草、言葉、表情、風景。そんなさりげない要素に映しだされる魅力。ジワジワくる感じがたまらないのです。細かい振る舞いなので、見返せば見返すほどに新発見があるし、毎回少し違った意味でほっこりもするんだと思います。

Smoke
この映画について語るのであれば、「煙草」は無視するわけにはいきません。登場するオッサンたちは「煙草」ばっか吸ってます。終始プッカプカしてます。昨今の煙草事情からすれば、もう救いようのないダメなオヤジたちなわけです。しかし、そんな風に切り捨てられないほどに愛すべきオヤジたちなんです。困ったっことに。

エンディングは、これも大好きトム・ウェイツの"Innocent When You Dream"


素晴らしい作品だと思ってます。
あと、ひとこと言わせてもらえるのなら、「ポール・ベンジャミン」という名前にはオースターファンとして、毎回ニヤッとさせられます。

偏見に満ちた評価:★★★★★



May 19, 2013

【映画】『The Blues Brothers』



あらすじ:刑期を終えて出所したジェイク。弟のエルウッドと共に彼を育ててくれた孤児院の存続の危機を救うために彼らのバンドを復活させようと思い立つ。

小学生のころ、大好きだった映画。なぜかこの映画後半のカーアクションに夢中でした。見返してみて、思ったのは、いい映画だなと。音楽好きとしては、レイ・チャールズを筆頭にジェームズ・ブラウン、アレサ・フランクリン、あのスティーブ・クロッパー、ドナルド・ダック・ダンなどの有名どころのミュージシャンたちが出演してるので、もうそれだけで見る価値があるなぁと。
Blues Brothers in Florida
ストーリーもおもろくて、ネオナチ、レッドネック、ジェイクの命を狙う謎の女性などのトンチンカンなキャラクター達がみせる"ブルースブラザーズ"との絡みは笑えます。ブルースブラザースのファッションもいいですよね。往年のブルースマンに対するオマージュなのであろう、黒のスーツに黒いサングラス。主人公たちのダメさも、彼らをいい感じに魅力的に映してます。スピード違反を無視してのカーチェイス。モールをボッコボコにしてます。最悪な奴らなのになんとも魅力的なわけです。
The Blues Brothers

というか、この映画1980年の公開なんですね。知らなかったです。意外と古いんですね。個人的には90年代あたりかなと思ってました。たまげた。

ちなみにこの方々、もともとがバンドスタートなのもあり、ブルースブラザーズとしてCDもだしてます。なかなかかっこいいですよ。


偏見に満ちた評価:★★★★★



【映画】『パッチギ!LOVE&PEACE』



あの『パッチギ!』の続編。
『パッチギ!』


「パッチギ」の意味は「突き破る、乗り越える」または「頭突き」だそうです。

一作目の『パッチギ!』は前に見てました。そちらは恋愛がメインのシナリオ。ロミオとジュリエット的な作品だったように記憶してます。一作目は好きな作品のひとつなので、今回の『パッチギ!LOVE&PEACE』は期待しながらレンタル。

あらすじ:『パッチギ!』が1968年京都だったのに対して、『パッチギ!LOVE&PEACE』の舞台はそれから5年後。70年代の東京。主人公一家の話と同時進行的に主人公の父親の話も展開していきます。

結論から言えば、一作目のほうが僕は好きです。二作目は、お涙頂戴的な感じがあらゆるシーンから香ってきました。そんなところがどうもダメでした。一作目では、メインのシナリオはもちろんのこと、乱闘シーンに始まり、大満足のキャラの濃さ、高校生ヤンキー役のケンコバに笑い、ヒッピーに扮するオダギリジョーに「おっ」としました。やっぱり続編ってのは大変なんでしょう。一作目が偉大であればあるほどに、ハードルはあがってしまうんでしょう。


偏見に満ちた評価:★★☆☆☆



May 17, 2013

【映画】『Argo』



1979年のイランアメリカ大使館人質事件を題材にした映画。第85回アカデミー賞にて作品賞、脚色賞、編集賞を受賞。

あらすじ:
イラン革命の最中のイラン。過激派に襲撃されるイランのアメリカ大使館。50名を超えるアメリカ人が人質にとられるという事態の中、6人の外交官は脱出に成功する。カナダ大使館に匿われるが、発見されるのは時間の問題。見つかれば、死。彼らを救うために奮闘するCIA工作員。


“Truth is stranger than fiction.”
そんな言葉もありますが、この作品にも同様のことが言えるのかなと。半端なフィクションよりもずっとぶっとんだノンフィクションでした。もうホントに目が離せないレベル。
実際のアルゴ作戦についてはこちら参照。

この作品に関してはこんな記事が少し前にあがってましたよね。
アカデミー賞『アルゴ』にイランが激怒


偏見に満ちた評価:★★★★★


May 16, 2013

「選択するふり」をする僕たち


自由意志というものなど存在しないのかも、と。そんなことを少し前から感じることがあります。
『1Q84』で青豆というキャラクターがこんなことを口にします。
「でもね、メニューにせよ男にせよ、ほかの何にせよ、私たちは自分で選んでいるような気になっているけど、実は何も選んでいないのかもしれない。それは最初からあらかじめ決まっていることで、ただ選んでいるふりをしているだけかもしれない。自由意志なんて、ただの思い込みかもしれない。ときどきそう思うよ」
Born
僕たち、人間は始まりから受動的存在。生まれようとして、この世に生を授かる人はいないですよね。知らぬ間に、この世に転がり込んでくる僕たち。母語の選択もできずに。なんだか知らぬうちに言葉を口にしているといった具合。そして、気づけば「選択しているふり」をするようになると。

村上春樹つながりでいけば、去年のエルサレムでの受賞スピーチで、彼はこんなことを言っていました。

“Think of it this way. Each of us is, more or less, an egg. Each of us is a unique, irreplaceable soul enclosed in a fragile shell. This is true of me, and it is true of each of you. And each of us, to a greater or lesser degree, is confronting a high, solid wall. The wall has a name: It is The System. The System is supposed to protect us, but sometimes it takes on a life of its own, and then it begins to kill us and cause us to kill others - coldly, efficiently, systematically.” (http://www.salon.com/2009/02/20/haruki_murakami/)
 しかし、それだけではありません。もっと深い意味があります。こう考えてください。私たちは皆、多かれ少なかれ、卵なのです。私たちはそれぞれ、壊れやすい殻の中に入った個性的でかけがえのない心を持っているのです。わたしもそうですし、皆さんもそうなのです。そして、私たちは皆、程度の差こそあれ、高く、堅固な壁に直面しています。その壁の名前は「システム」です。「システム」は私たちを守る存在と思われていますが、時に自己増殖し、私たちを殺し、さらに私たちに他者を冷酷かつ効果的、組織的に殺させ始めるのです。
http://ameblo.jp/nattidread/entry-11346558241.html
29/52 choice paralysis
人生は選択の連続です。今夜の夕食の献立、どのテレビ番組を見るのか、どの学校を受験するのか、どの職業に就くのか、電車に乗るのか、歩くのか。それは、選択に埋もれている僕たちなのかもしれません。そこに在るのは、村上春樹の言うところの「システム」であって、社会であって、周囲の人間であって、と自らの選択に影響を与えてくるモノたち。あるいは、見方次第では、そういった介入に、僕らは救われているともいえるかもしれません。

それが良いことなのか悪いことなのかはわかりませんが、少なくとも完全に自由なる意志は、おそらく存在などしていなくて、代わりに存在しているのが、「選択しているふり」をする僕たちなのではないでしょうか。

May 12, 2013

【読書】『韓国天才少年の数奇な半生』



天才、あるいは神童と呼ばれる人は、変わった人生を歩みがちです。キム・ウンヨンも例外ではないようです。そんなキム・ウンヨン氏を追いかけ続けたフリーランスライターの大橋義輝による一冊。

キム・ウンヨンという少年
僕はキム・ウンヨンという人間のことを知りませんでした。『韓国天才少年の数奇な半生』によると、
・2000年に1人のIQを持つ天才。
・1歳にして漢字を操る。
・3歳にして『星にきいてごらん』という書籍を出版。
・3歳にしてIQ測定不能のためにIQ210となる。(81年版から謎の削除をされるまでギネス記録)
・4歳にして日本のテレビ番組で、東大生ふたりを数学で負かす。
すさまじい。まさしく神童としか言いようがない。当然の如く、マスコミの標的になったそうです。しかし、あるとき、忽然とメディア上から姿を消してしまったキム・ウンヨン少年。


天才と教育

『韓国天才少年の数奇な半生』ではキム・ウンヨン氏に関することだけではなく、数多の智の巨人達についても触れています。そして、彼らのうけた教育についても。そんな脱線話もおもしろかったです。

神童/天才と教育といえば、ヘルマン・ヘッセの『車輪の下』が浮かんできます。

村一番の神童ハンス・ギーベンラートが「車輪(社会制度)」に押しつぶされていく様を描いた作品。ハンス少年は幼いころから、勉学に励み、神童と言われるようになります。しかし、すばらしい友人との出会いなどを通じて、あるいは神童教育の反動からか、徐々にエリートコースを脱線していきます。

MASS EDUCATION.

幼いころから詰め込むことによる反動。神童教育にはそういったマイナス面が存在しているはずです。二十歳を過ぎればなんちゃらという言葉もあるように。そういった「教育」により潰されてしまった子どもたち。だからといって、読み聞かせも何もしない放任主義がいいのかといわれれば、必ずしもそうだとは言い切れないのかと。やっぱり、その子に適した教育方針を模索してあげるのが最適な教育なのではないかと思います。決して簡単ではないですが。そんなことを考えていると、子育てって相当大変なことだなと。

さいごに
良く言えば、サラッと読めます。僕も2時間程で読み終えました。もちろん十分に楽しませてもらいました。しかし、苦言を呈すれば、帯には「天才とは、教育とは、親子関係とは」と謳っているのに、そこまでこちらに訴えかけてくるほどのものでもなかったのかな、と。


偏見に満ちた評価:★★★☆☆


【読書】『ベロニカは死ぬことにした』



おもしろい作品というものは、一体どこに潜んでいるのかわからないものです。たまたま家の本棚に眠っていたところを僕に発掘されたこの『ベロニカは死ぬことにした』も例外ではなかったです。なんとなく手に取り、読み始めたはずが、一気に引き込まれていました。

あらすじ:
ベロニカという美しい少女の物語。誰もが羨むような人生を送っていたはずの彼女。しかし、人の問題というのは外からみえるものばかりではない。彼女の場合も然り。ある日、自殺を図るベロニカ。そこから物語が幕を開ける。


僕が大好きな坂口安吾は『堕落論』のなかでこんなことを言っています。
「二十の処女をわざわざ六十の老醜の姿の上で常に見つめなければならぬのか。これは私には分からない。私は二十の美女を好む」


『ベロニカは死ぬことにした』もそんな想いから始まります。坂口安吾に負けず劣らず「中二臭」がプンプンします。中二病をこじらせている身としては、かなり楽しめました。

偏見に満ちた評価:★★★★☆



May 2, 2013

白か黒か


大人なのか。子供なのか。オタクなのか。中二病なのか。ノマドなのか。暇人なのか。好きなのか。嫌いなのか。真面目なのか。不真面目なのか。

世界はどうにも二極化しがちだ。そうすることで人間というものを「わかろう」としている、僕たち。ただし、本当のところ、そんな風にシンプルにはカテゴライズできるようなものではなくて。そんなことをわかっているから、その狭間で見失う。グレーゾーンに漂う、僕たち。

わからないからこそ、わかろうとする。そもそものところで、わかるはずのないものをわかろうともがいている。そんな様が、歯痒くも、美しい。

ここ何日か、暗くなるとジンを独りでちびちびやっている。煙草も吸う。グレーゾーンから抜け出せる気はしない。